自分の好きをうたがわない力。ソールブランチシンチョウ、TACさんのストーリー。

時の流れは早いもので、初めてお会いしたのはもう23年も前になる。

当時17歳のぼくは、首からギターをぶら下げてロックでご飯が食べていけるとすっかり信じ込んでいた。周りの仲間ももちろんロックが大好きだった。今はもう老舗と言っても過言ではない、ライブハウスROXXに出入りして気持ちよく調子に乗っていた。

とあるライブに出演した際、彼らとの出会いは突然やってきた。

彼らはZodiac nova,pop-machine & contemporary systemという当時は理解不能なほど長いバンド名を持ったボサノヴァを基調としたグループだった。聞いたことのないブラジルの音楽は心地よくかつ現代的な独自の解釈も持っていて、ロックやヒップホップ以外の音楽はダサいと思っていたぼくはとてつもない衝撃を受けたのを今でもはっきりと覚えている。

メンバーのTACさんとYAMさんの二人はその前から、ずっと地元の音楽やアートのシーンを牽引してきた伝説の存在なのだ。

実は十和田市出身のTACさん。

中学時代から十和田で組んだバンドを、高校進学で八戸に移ってからも続け、そこから県外の大学に進学し卒業後は十和田に戻りホテルマンとしてサービス業に従事していた。

そこからなぜ八戸に来ることになったのか聞いてみたが、「わっかんねぇな〜。音楽をやっているうちに知らないうちに八戸に来てしまったんじゃねぇか。」とのことだった。

うーん。麦わらのルフィ的なメンタリティを感じる。

そして、2002年ころに八戸市庁裏の「蕎麦処おきな」さんの従業員更衣室を自分でリノベーションし、ブラジル料理や創作料理が食べられるダイニングバーそーるぶらんち」を開店。

昼はおきなで働きながら夜はそーるぶらんちで働き、空いた時間は音楽活動といつ寝ているのか分からない生活を今でも続けているそう。

そんな中で、小中野新丁にあった「旧おきな旅館」をどうしようかという話が持ち上がる。

実は「蕎麦処おきな」は、江戸時代に江戸の料亭の三男だった初代が八戸に来て始めたらしく、元々は小中野新丁で料亭だった。昭和に入り、そば部門として市庁裏の現在の店舗がオープンし、小中野新丁は旅館として営業してきたが八戸港の水揚げ高の減少に伴い、小中野に宿泊する人も減っていき閉店となったらしい。

どう使おうかと考える中で、現在のカフェとギャラリーがあったらいいかな程度の考えしかなかったし、特にビジョンもなかったとのことだった。考えながら動きながら少しづつ、コツコツと自分自身でリノベーションを続け、2015年12月に「ソールブランチシンチョウ」がオープンし、現在で丸4年を迎えた。オープンにあたりスタッフは相方のYAMさんしかいないと声をかけ、コンビで始めたそうだ。

TACさん曰く、「小中野の人は良い時代や歴史を知っていて、小中野に誇りを感じている人が多い。営業しながら小中野の持つ伸び代の大きさを感じている。」とのことで、開店から小中野に来てくれる人が増えて、ここにしかないまちが少しづつでも創られていくことを願っているそう。

カフェ営業を続ける傍ら、ギャラリーで様々なアーティストの企画展示が行われて、作品の販売もされている。「気に入った本物の絵を買って部屋に飾る。これが本当のリッチな生活だ。」とTACさん。好きな事をとことん仕事として進めている人だけあって、本当の豊さみたいなものをすごく感じることができた。

今年はフォトグラファー土井弘介氏と共に、ボサノヴァの神様、ジョアン・ジルベルトの写真展の企画を進めてきた。企画準備の途中、ジョアン・ジルベルト本人が今年7月6日に亡くならってしまい、9月14日〜10月20日まで急遽、追悼企画として展示された。その後も様々な企画が立てられ、展示スケジュール内のみのカフェ営業(12時〜18時)となっていて営業スケジュールはHPで確認できる。http://saulebranche.info/#information

そして、アーティストとしての活動も多岐にわたる。20年くらい前はヴェログサンズという名前だったサンバチームは、現在またたびサンバという名前で継続しているそう。また6年続けているのがトルホヴォッコ楽団としての活動だ。

南郷文化会館にて開催されていて、シナリオや音楽、絵などを全て仲間たちと手作りで開催されている。今年は9月22日に開催された。来年が楽しみだ。

とてつもない熱量を放ちながら、これだけの間継続できていることに感動する覚えてしまった。継続の秘訣をお聞きしたら、「やりたい事をやっているから大変でも楽しんでいる。怖くもなければ、失敗したら人として責任を取ればいいと思っている。」とやはり麦わらのルフィのようなお答えだった。

取材させていただいた中で、特に印象的だったのはTACさんの自分自身を信じる力だ。

好きなことを仕事にしている人でも内心は多くの葛藤があるものだと思うが、TACさんからはまったく感じられなかった。ルフィや悟空の如く自分自身を疑わない力強さを感じた。

だからこそ、これだけの年月まったくブレずに、積み重ねて活動されているのだなと思う。

実は取材をさせていただく前は、交通の便も決していいとはいえない小中野新丁でなぜ、毎日オープンしないお店ができているのか不思議でたまらなかった。

しかし、アーティストとしての長期間の活動を通じて人のつながりを生んで、人を巻き込みながらコトを起こしているんだなと勝手に納得してしまった。

これからもTACさんとYAMさんの活動をどうぞお楽しみに!

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